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2015年8月某日 都内某所

劇団セルビシエ’第6回公演『ヴィア・ドロローサ』振り返り座談会 vol.5

インタビュアー:渡辺直希(劇団セルビシエ’団員)

 

高橋陽文(脚本・演出、以下:高橋)

タリ(マリナ役・衣装・振付、以下:タリ)

松本鮎子(アンデレ役、以下:松本)

木野紘器(バルトロマイ役、以下:木野)

田中智絵里老婆役、以下:ちえり)

 ―その役が日常生活をしたらどうなるかって言うのを考えたくなる―

(タリ)

――   役者論について聞いて見ようかな。みんな多分じっくり考えたこと無いんだろうけど、自分が

     役を作りこんでく上で、まっつーはどうやってるの?
松本   ……うーん、まあ、結構、『花灯す夢』までは、全体の中でどういう立ち位置かって役が多かった

     から……って私は認識してて、その、なんだろう、すごいメインの人たちがいて、その人たちが

     どういう感じかによってちょっと変わる要素もあるなみたいな。
――   ああ、なるほどねぇ。
松本   っていう風に捉えてたから、結構周りを様子見しながらやるみたいな。
――   まあ邪魔しないようにとか?
松本   だから遅い。いろいろ。
――   遅い?
松本   自分の中でしっくりくるのがすごい遅くていつも。後半にならないと、しっくりこなくて。
――   具体例でいうと?羊飼い(劇団セルビシエ第2回公演『西の羊飼い』)だったら?
松本   ナギ(『西の羊飼い』での松本の役)とかもそうだし。みんながどういう感じで演技するかに

     よって、それに対して、バランスを取るみたいな。まあ、結構そういう立ち位置が多いんだよ

     ね、いつも。なんかそういうほうが、向いてるし、そういうことが多いから、「自分はこう

     いきます!」ってドンっ!ってやるのが苦手だから。
――   あーなるほど!自分がやりたい演技プランがあったとしてもそれを通すわけでもなく?
松本   それを主役の人とかは一番に作って、「俺こうだぜ!」ドーンっ!ってやるスタイルが多分必要

     なんだよ。それがすっごい苦手だなって思って。それがつらかった。だから『花灯す夢』(劇団

     セルビシエ’第5回公演『花灯す夢』)がね。
――   あー主役やったからね。
松本   結構出番が多くて、自分を確立させないと、困るよね!っていうのはわかってるけど……みたい

     なのがすごい大変だったから。今回は「こういう感じでやって!」ていうのが決まってて言われ

     てたから。
――   じゃあ楽だったんだ?どっちかって言うと。
松本   楽って言うか、それが、結構今までの役とは全然違うって意味では大変だったけど、まあもう

     「こういう感じ」っていうのが、その、脚本家陽文の「エッジを尖らせろ」みたいな発言以降、

     十二使徒は結構みんなそうなってったから、やりやすくなって、であたしは友達に「なんか

     アンデレみたいな子、一番嫌いそうだよね。」って。(笑) 「なんか鮎子が一番嫌いそうな役じゃ

     ない?」って言われました(笑)
――   はっきりしないやつ?
松本   そう(笑)
――   じゃあいつもあれだ、脚本読んで、「じゃあこれこういう感じで台詞言ってこうかな」っていう

     のは別にやんないんだ?
松本   やるやる、やるけど、それを回りとのバランスで。
――   どんどん変えてっちゃうんだ。
松本   そう、変えてっちゃう。だから「自分でこう!」みたいな感じじゃない、あんまり。あとは自分

     が目立たない感じのことが多いからかな、多分。なんていうのかな……脇を添える……?分かんな

     いけど(笑)
――   どちらかと言うと人を立てる方が強いってイメージだよね?
松本   かな……?
――   邪魔しないっていうか。
松本   そう。邪魔しない立ち位置を探しちゃう、感じかな。
――   なるほどねえ……ちえりにとって「役者」とは?
ちえり  なんだろう?難しいですね。
松本   ねぇ。
――   でも、いつもどういう風に……?なんか一回ドーンとくるわけ?脚本見たときに「あーこれこう

     いうキャラだな」っていうのぱっと分かったりするの?
ちえり  今回はまたちょっと特別すぎるから置いといて。
――   うん、そうだね。
ちえり  なんか今の鮎子さんの話でいうと、なんだろう、その周りの人が進んでいく中で、「周りの人に

     対してこの人はどういう感情になっているのかな?」とか……
      たとえば、「この役はこの人に対してどういう風に思ってるのか、どういう感情を持っている

     のか、この人にはどう思ってるのかな」っていうのを……
――   えー、考えてるんだ。偉い……
ちえり  それが一番素直に行動に出そうな……
――   あー、なるほどね!それ考えておくことによって、「あぁ、じゃあこの場面はこういう風に動い

     ていくんだろうな」っていうのが(見える)。
ちえり  だから、同じ台詞でもこの人のこと好きなのか、そうじゃないのかで絶対変わってくるし。
――   なるほどね。じゃあ、今回の話いこうか。おばあちゃんの話(笑)
ちえり  へ?
――   いや、ダブルキャストだったじゃん?なんか、真央ちゃんとどういう風に違い出してこうかな?

     みたいな。
高橋   (笑)
ちえり  違い?
――   あたし、あたしを立たせるためにどういう風にしてこうかな?みたいのはあったの?
一同   (笑)
ちえり  いや、立たせようと思ってないですよ(笑)
高橋   邪魔しないように?(笑)
――   邪魔しないように(笑)そこで言うとなんか、まっつーと同じなんだね。
ちえり  そうそう。そうかもしれない。
松本   うん、すごい分かる気がするそれ。
――   あーそんな感じなんだ?
ちえり  うん、近づける方向で。
――   なるほど……そこで言うと、木野さんはいつもどうやってるの?
高橋   確かに……(笑)
木野   役者?
――   バルトロマイは、キャラがすごく立ってたから、多分スーっといったんだろうけど。
木野   うん、まあ、あれだよね、役者としては、自分がお客さんだったときに、こんな芝居だったら

     面白いなとか、こんな役がいたら面白いなっていう視点でいつもやっていて……
――   ふーん……
木野   だから、役者として、自分がこうなんじゃないかなって思ってやってみることって、結構傍から

     見ると、大して面白くなかったり、分かりにくかったり、とかっていうのが多いから、周りから

     見て分かりやすくて、面白くて、っていうのを意識しながらやってる。
――   あー、なるほどね。ふーん……
木野   で、結局お金払って見に来てくれるから、何かしらのプラスになるものを提供しなきゃいけない

     から、「俺はこれを提供するぜ!」ていう。
――   (笑)なるほどね。なかなかのプロフェッショナルな意見が出てきましたよ?タリは?
タリ   ……私はなんか役作りに行き着くまでがすごい遅くて。稽古始まりましたってなったらここが弱点

     だっていうのがわかってるから、まずそこの解決って言うか、そこを全力で注意しながら、かつ

     セリフも覚えるの遅いから、全力で注意しつつ台詞覚えないと、役者としてどう立ち振る舞う

     べきかってところにいけない。
高橋   だから、タリナさんってほら、役がしっくりきてるかどうかのバロメーターとしてさ、対面に

     座ってる役者の目を見れるかどうかだから(笑)
――   (笑)目を見れるかどうかね!
タリ   そう!(笑)
高橋   それまで本当に目が合わないもんね?(笑)
タリ   目が合わない状態のときは多分本当に台詞もまだ入ってないし。あと、もう本当に気をつけよう

     って思ってるのは、語尾が消えやすいっていいうのと、あと一本調子になりやすいのね。
――   はっきりいうからね。
タリ   うん、声を張りたいから、なるべく。基本的にその、私注意してないと声を張れないわけよ。

     だから、そこがちゃんとノッてこないとさっき言ったみたいに、目が合わないっていう。
――   あー、なるほどね。
高橋   本当に、目が全然最初合わなくて、途中から合ってきて、なんか……
――   「あーしっくりきてんだなあ、今」みたいな?
高橋   そうだから、「野生のタリナ」みたいな感じなのよ。
――   どういうこと?(笑)
高橋   キョロキョロしてんのなんか。
一同   (笑)
タリ   だから、なんだろうな、まあその声の調子とか言い方の調子とかもあるんだけど、立ち位置を

     探ってるんだなって思う、自分の中で。無意識的に。
――   ふーん……
タリ   なんかやっぱり、自分の動きたいように動こうとするけど、でも、客席から見たときにバランス

     が悪いとやっぱダメで。あと、全然変わらないとか、風景が。その舞台を、無駄の無いように

     使いたいっていうか。
――   うん。
タリ   なんか、台詞も大事だけど、空間は広く使いたいじゃん?
――   うん。
タリ   だから、その役うんぬんっていう、役の味付けよりも、まずその、舞台全体を見たときにおかし

     くないかっていうのを先に考えちゃうっていうか。
高橋   うんうん。
――   なるほど。どっちかっていうと演出家目線で考えちゃうんだね。
松本   そうだね。
タリ   かも知れない。なんかその、言われたくないんだろうね、そこをまず。
高・松  あー……
――   なるほど、怒られたくないんだ?
松本   その点に関して言われたくないって事だよね?
タリ   その手間を省きたいっていうのもあるし、自分でもがんばってそこは先に糸口を見つけたいって

     いうか。
高橋   ふーん……
タリ   自分から先に動けてたいっていうか。そこで注意される前に自分で解決しといて、自分は自分で

     早く役の味付けが出来るように、その段階終わらせときたいみたいな。
――   ふーん……
タリ   全然わかんねー(笑)
――   いや、なんとなく分かった。一個ずつしかできねぇってことだね?
タリ   ……うん。
高橋   ……ざっくりしすぎじゃない?(笑)
――   (笑)でも、そうでしょ?台詞入れるまでは役にも色付けられないし、全体で見たときに、ちょっと

     おかしいっていったところをなくしていかないと、次のステップにはいけないし。
高橋   「自分、不器用っすから」みたいな(笑)
――   そう、「自分、不器用っすから」ってことだよね?鉄道員(ぽっぽや)ってことだ(笑)
タリ   その辺が全部解決した後になにをやるかっていうと、その役が日常生活をしたらどうなるかって

     言うのを考えたくなるわけ。
――   お、興味深いね。
タリ   たとえば、その役がご飯を食べたらどうなるかとか。仕事をしたらとか、勉強してるとき、友達

     と会話をしてるとき、私とどう違うのか。そのなんていうんだろう、その人で考えるんじゃなく

     て、何か自分とか自分と近しい人との対比で考えていくかなって言うのはある。
      比較対象を見つけて、それとどう違うかから考えていくかな。
高橋   へー。
――   なかなか面白いユニークな作り方だね。じゃあ、一応聞くけど陽文は?
高橋   なんで?(笑) まあ、でも本当一応だよね(笑) あってないようなもんだもんなあ……いやまあ、

     気をつけてることは、その役として、やるはずのないことはやらないし、必然性のない動きは

     しない。
――   ……自然?
高橋   うん。最終的にはあっちに行ってなきゃいけないんだけど、この場面では動けないから、もっと

     必然的なところがあるはずだっていう、なんかそういうのを探しながらやってるって感じ。
――   一番しっくりくるところ?
高橋   そう、であとやっぱり、やっぱお客さんとして観た時に……あのこれは俺がとにかく恐怖してる

     のは……のっぺりしてるっていうか、「くそみそにつまんねえ奴になってねえかな」っていうの

     だけはすごい心配してる。
――   くそみそにつまんねぇやつ(笑)
高橋   そう。「こいつ何にもひっかかりもなきゃ、ざらつきもなきゃ、つるっと知らねえ奴だな」って

     いうのにはなりたくないんだけど、ビデオで見ると、そうなってんのよ!
一同   (笑)
高橋   だから怖くて(笑) なるべくお客さんの視点から考えて……まあ、頭でくちゃくちゃっと難しく考

     えすぎてんのかもしれないけど。「ここでこういう風にやったらどういう風に見えてんだろう?

     この動きってどういう風に映ってんだろう?」とかね。
――   なるほどね。
高橋   だから、俺にとっての役者って、難しい(笑)
――   (笑)まあ、そうね。役者は難しいよ。

 

(文責:和田幸子)

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